返回
朗读
暂停
+书签

视觉:
关灯
护眼
字体:
声音:
男声
女声
金风
玉露
学生
大叔
司仪
学者
素人
女主播
评书
语速:
1x
2x
3x
4x
5x

上一页 书架管理 下一页
四 - 3
さんも今度は本気に苛(ひど)いと感じたらしい。

    「そこで今日わざわざ君を招いたのだがね」としばらく途切れて金田君の声が聞える。「そんな馬鹿者は陰から、からかってさえいればすむようなものの、少々それでも困る事があるじゃて……」と鮪(まぐろ)の刺身を食う時のごとく禿頭(はげあたま)をぴちゃぴちゃ叩(たた)く。もっとも吾輩は椽(えん)の下にいるから実際叩いたか叩かないか見えようはずがないが、この禿頭の音は近来大分(だいぶ)聞馴れている。比丘尼(びくに)が木魚の音を聞き分けるごとく、椽の下からでも音さえたしかであればすぐ禿頭だなと出所(しゅっしょ)を鑑定する事が出来る。「そこでちょっと君を煩(わずら)わしたいと思ってな……」

    「私に出来ます事なら何でも御遠慮なくどうか――今度東京勤務と云う事になりましたのも全くいろいろ御心配を掛けた結果にほかならん訳でありますから」と御客さんは快よく金田君の依頼を承諾する。この口調(くちょう)で見るとこの御客さんはやはり金田君の世話になる人と見える。いやだんだん事件が面白く発展してくるな、今日はあまり天気が宜(い)いので、来る気もなしに来たのであるが、こう云う好材料を得(え)ようとは全く思い掛(が)けなんだ。御彼岸(おひがん)にお寺詣(てらまい)りをして偶然方丈(ほうじょう)で牡丹餅(ぼたもち)の御馳走になるような者だ。金田君はどんな事を客人に依頼するかなと、椽の下から耳を澄して聞いている。

    「あの苦沙弥と云う変物(へんぶつ)が、どう云う訳か水島に入(い)れ智慧(ぢえ)をするので、あの金田の娘を貰っては行(い)かんなどとほのめかすそうだ――なあ鼻子そうだな」

    「ほのめかすどころじゃないんです。あんな奴の娘を貰う馬鹿がどこの国にあるものか、寒月君決して貰っちゃいかんよって云うんです」

    「あんな奴とは何だ失敬な、そんな乱暴な事を云ったのか」

    「云ったどころじゃありません、ちゃんと車屋の神さんが知らせに来てくれたんです」

    「鈴木君どうだい、御聞の通りの次第さ、随分厄介だろうが?」

    「困りますね、ほかの事と違って、こう云う事には他人が妄(みだ)りに容喙(ようかい)するべきはずの者ではありませんからな。そのくらいな事はいかな苦沙弥でも心得ているはずですが。一体どうした訳なんでしょう」

    「それでの、君は学生時代から苦沙弥と同宿をしていて、今はとにかく、昔は親密な間柄であったそうだから御依頼するのだが、君当人に逢ってな、よく利害を諭(さと)して見てくれんか。何か怒(おこ)っているかも知れんが、怒るのは向(むこう)が悪(わ)るいからで、先方がおとなしくしてさえいれば一身上の便宜も充分計ってやるし、気に障(さ)わるような事もやめてやる。しかし向が向ならこっちもこっちと云う気になるからな――つまりそんな我(が)を張るのは当人の損だからな」

    「ええ全くおっしゃる通り愚(ぐ)な抵抗をするのは本人の損になるばかりで何の益もない事ですから、善く申し聞けましょう」

    「それから娘はいろいろと申し込もある事だから、必ず水島にやると極(き)める訳にも行かんが、だんだん聞いて見ると学問も人物も悪くもないようだから、もし当人が勉強して近い内に博士にでもなったらあるいはもらう事が出来るかも知れんくらいはそれとなくほのめかしても構わん」

    「そう云ってやったら当人も励(はげ)みになって勉強する事でしょ
上一页 书架管理 下一页

首页 >吾輩は猫である简介 >吾輩は猫である目录 > 四 - 3