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五 - 1
う器械である。活版の睡眠剤である。

    今夜も何か有るだろうと覗(のぞ)いて見ると、赤い薄い本が主人の口髯(くちひげ)の先につかえるくらいな地位に半分開かれて転がっている。主人の左の手の拇指(おやゆび)が本の間に挟(はさ)まったままであるところから推(お)すと奇特にも今夜は五六行読んだものらしい。赤い本と並んで例のごとくニッケルの袂時計(たもとどけい)が春に似合わぬ寒き色を放っている。

    細君は乳呑児(ちのみご)を一尺ばかり先へ放り出して口を開(あ)いていびきをかいて枕を外(はず)している。およそ人間において何が見苦しいと云って口を開けて寝るほどの不体裁はあるまいと思う。猫などは生涯(しょうがい)こんな恥をかいた事がない。元来口は音を出すため鼻は空気を吐呑(とどん)するための道具である。もっとも北の方へ行くと人間が無精になってなるべく口をあくまいと倹約をする結果鼻で言語を使うようなズーズーもあるが、鼻を閉塞(へいそく)して口ばかりで呼吸の用を弁じているのはズーズーよりも見ともないと思う。第一天井から鼠(ねずみ)の糞(ふん)でも落ちた時危険である。

    小供の方はと見るとこれも親に劣らぬ体(てい)たらくで寝そべっている。姉のとん子は、姉の権利はこんなものだと云わぬばかりにうんと右の手を延ばして妹の耳の上へのせている。妹のすん子はその復讐(ふくしゅう)に姉の腹の上に片足をあげて踏反(ふんぞ)り返っている。双方共寝た時の姿勢より九十度はたしかに廻転している。しかもこの不自然なる姿勢を維持しつつ両人とも不平も云わずおとなしく熟睡している。
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