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五 - 5
(じ)れたくなったと見えて

    「それじゃ盗難の時刻は不明なんですな」と云うと、主人は例のごとき調子で

    「まあ、そうですな」と答える。巡査は笑いもせずに

    「じゃあね、明治三十八年何月何日戸締りをして寝たところが盗賊が、どこそこの雨戸を外(はず)してどこそこに忍び込んで品物を何点盗んで行ったから右告訴及(みぎこくそにおよび)候也(そうろうなり)という書面をお出しなさい。届ではない告訴です。名宛(なあて)はない方がいい」

    「品物は一々かくんですか」

    「ええ羽織何点代価いくらと云う風に表にして出すんです。――いや這入(はい)って見たって仕方がない。盗(と)られたあとなんだから」と平気な事を云って帰って行く。

    主人は筆硯(ふですずり)を座敷の真中へ持ち出して、細君を前に呼びつけて「これから盗難告訴をかくから、盗られたものを一々云え。さあ云え」とあたかも喧嘩でもするような口調で云う。

    「あら厭(いや)だ、さあ云えだなんて、そんな権柄(けんぺい)ずくで誰が云うもんですか」と細帯を巻き付けたままどっかと腰を据(す)える。

    「その風はなんだ、宿場女郎の出来損(できそこな)い見たようだ。なぜ帯をしめて出て来ん」

    「これで悪るければ買って下さい。宿場女郎でも何でも盗られりゃ仕方がないじゃありませんか」

    「帯までとって行ったのか、苛(ひど)い奴だ。それじゃ帯から書き付けてやろう。帯はどんな帯だ」

    「どんな帯って、そんなに何本もあるもんですか、黒繻子(くろじゅす)と縮緬(ちりめん)の腹合せの帯です」

    「黒繻子と縮緬の腹合せの帯一筋――価(あたい)はいくらくらいだ」

    「六円くらいでしょう」

    「生意気に高い帯をしめてるな。今度から一円五十銭くらいのにしておけ」

    「そんな帯があるものですか。それだからあなたは不人情だと云うんです。女房なんどは、どんな汚ない風をしていても、自分さい宜(よ)けりゃ、構わないんでしょう」

    「まあいいや、それから何だ」

    「糸織(いとおり)の羽織です、あれは河野(こうの)の叔母さんの形身(かたみ)にもらったんで、同じ糸織でも今の糸織とは、たちが違います」

    「そんな講釈は聞かんでもいい。値段はいくらだ」

    「十五円」

    「十五円の羽織を着るなんて身分不相当だ」

    「いいじゃありませんか、あなたに買っていただきゃあしまいし」

    「その次は何だ」

    「黒足袋が一足」

    「御前のか」

    「あなたんでさあね。代価が二十七銭」

    「それから?」

    「山の芋が一箱」

    「山の芋まで持って行ったのか。煮て食うつもりか、とろろ汁にするつもりか」

    「どうするつもりか知りません。泥棒のところへ行って聞いていらっしゃい」

    「いくらするか」

    「山の芋のねだんまでは知りません」

    「そんなら十二円五十銭くらいにしておこう」

    「馬鹿馬鹿しいじゃありませんか、いくら唐津(からつ)から掘って来たって山の芋が十二円五十銭してたまるもんですか」

    「しかし御前は知らんと云うじゃないか」

    「知りませんわ、知りませんが十二円五十銭なんて法外
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