七 - 6
眸(ひとみ)をそらすと、暗憺(あんたん)として物色も出来ぬ中に、例のちゃんちゃん姿の三介(さんすけ)が砕けよと一塊(ひとかたま)りの石炭を竈(かまど)の中に投げ入れるのが見えた。竈の蓋(ふた)をくぐって、この塊りがぱちぱちと鳴るときに、三介の半面がぱっと明るくなる。同時に三介の後(うし)ろにある煉瓦(れんが)の壁が暗(やみ)を通して燃えるごとく光った。吾輩は少々物凄(ものすご)くなったから早々(そうそう)窓から飛び下りて家(いえ)に帰る。帰りながらも考えた。羽織を脱ぎ、猿股を脱ぎ、袴(はかま)を脱いで平等になろうと力(つと)める赤裸々の中には、また赤裸々の豪傑が出て来て他の群小を圧倒してしまう。平等はいくらはだかになったって得られるものではない。