三 - 8
あらまあ、よく真面目であんな嘘が付けますねえ。あなたもよっぽど法螺(ほら)が御上手でいらっしゃる事」と細君は非常に感心する。「僕より、あの女の方が上(う)わ手(て)でさあ」「あなただって御負けなさる気遣(きづか)いはありません」「しかし奥さん、僕の法螺は単なる法螺ですよ。あの女のは、みんな魂胆があって、曰(いわ)く付きの嘘ですぜ。たちが悪いです。猿智慧(さるぢえ)から割り出した術数と、天来の滑稽趣味と混同されちゃ、コメディーの神様も活眼の士なきを嘆ぜざるを得ざる訳に立ち至りますからな」主人は俯目(ふしめ)になって「どうだか」と云う。妻君は笑いながら「同じ事ですわ」と云う。