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四 - 4
    「水島と云う人には逢った事もございませんが、とにかくこちらと御縁組が出来れば生涯(しょうがい)の幸福で、本人は無論異存はないのでしょう」

    「ええ水島さんは貰いたがっているんですが、苦沙弥だの迷亭だのって変り者が何だとか、かんだとか云うものですから」

    「そりゃ、善くない事で、相当の教育のあるものにも似合わん所作(しょさ)ですな。よく私が苦沙弥の所へ参って談じましょう」

    「ああ、どうか、御面倒でも、一つ願いたい。それから実は水島の事も苦沙弥が一番詳(くわ)しいのだがせんだって妻(さい)が行った時は今の始末で碌々(ろくろく)聞く事も出来なかった訳だから、君から今一応本人の性行学才等をよく聞いて貰いたいて」

    「かしこまりました。今日は土曜ですからこれから廻ったら、もう帰っておりましょう。近頃はどこに住んでおりますか知らん」

    「ここの前を右へ突き当って、左へ一丁ばかり行くと崩れかかった黒塀のあるうちです」と鼻子が教える。

    「それじゃ、つい近所ですな。訳はありません。帰りにちょっと寄って見ましょう。なあに、大体分りましょう標札(ひょうさつ)を見れば」

    「標札はあるときと、ないときとありますよ。名刺を御饌粒(ごぜんつぶ)で門へ貼(は)り付けるのでしょう。雨がふると剥(は)がれてしまいましょう。すると御天気の日にまた貼り付けるのです。だから標札は当(あて)にゃなりませんよ。あんな面倒臭い事をするよりせめて木札(きふだ)でも懸けたらよさそうなもんですがねえ。ほんとうにどこまでも気の知れない人ですよ」

    「どうも驚きますな。しかし崩れた黒塀のうちと聞いたら大概分るでしょう」

    「ええあんな汚ないうちは町内に一軒しかないから、すぐ分りますよ。あ、そうそうそれで分らなければ、好い事がある。何でも屋根に草が生(は)えたうちを探して行けば間違っこありませんよ」<kbd>http://www?99lib?net</kbd>

    「よほど特色のある家(いえ)ですなアハハハハ」

    鈴木君が御光来になる前に帰らないと、少し都合が悪い。談話もこれだけ聞けば大丈夫沢山である。椽(えん)の下を伝わって雪隠(せついん)を西へ廻って築山(つきやま)の陰から往来へ出て、急ぎ足で屋根に草の生えているうちへ帰って来て何喰わぬ顔をして座敷の椽へ廻る。

    主人は椽側へ白毛布(しろげっと)を敷いて、腹這(はらばい)になって麗(うらら)かな春日(はるび)に甲羅(こうら)を干している。太陽の光線は存外公平なもので屋根にペンペン草の目標のある陋屋(ろうおく)でも、金田君の客間のごとく陽気に暖かそうであるが、気の毒な事には毛布(けっと)だけが春らしくない。製造元では白のつもりで織り出して、唐物屋(とうぶつや)でも白の気で売り捌(さば)いたのみならず、主人も白と云う注文で買って来たのであるが――何しろ十二三年以前の事だから白の時代はとくに通り越してただ今は濃灰色(のうかいしょく)なる変色の時期に遭遇(そうぐう)しつつある。この時期を経過して他の暗黒色に化けるまで毛布の命が続くかどうだかは、疑問である。今でもすでに万遍なく擦(す)り切れて、竪横(たてよこ)の筋は明かに読まれるくらいだから、毛布と称するのはもはや僭上(せんじょう)の沙汰であって、毛の字は省(はぶ)いて単にットとでも申すのが適当である。しかし主人の考えでは一年持ち、二
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