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上一章 书架管理 下一页
四 - 7
    吾輩と鈴木君の間に、かくのごとき無言劇が行われつつある間に主人は衣紋(えもん)をつくろって後架(こうか)から出て来て「やあ」と席に着いたが、手に持っていた名刺の影さえ見えぬところをもって見ると、鈴木藤十郎君の名前は臭い所へ無期徒刑に処せられたものと見える。名刺こそ飛んだ厄運(やくうん)に際会したものだと思う間(ま)もなく、主人はこの野郎と吾輩の襟(えり)がみを攫(つか)んでえいとばかりに椽側(えんがわ)へ擲(たた)きつけた。

    「さあ敷きたまえ。珍らしいな。いつ東京へ出て来た」と主人は旧友に向って布団を勧める。鈴木君はちょっとこれを裏返した上で、それへ坐る。

    「ついまだ忙がしいものだから報知もしなかったが、実はこの間から東京の本社の方へ帰るようになってね……」

    「それは結構だ、大分(だいぶ)長く逢わなかったな。君が田舎(いなか)へ行ってから、始めてじゃないか」

    「うん、もう十年近くになるね。なにその後時々東京へは出て来る事もあるんだが、つい用事が多いもんだから、いつでも失敬するような訳さ。悪(わ)るく思ってくれたもうな。会社の方は君の職業とは違って随分忙がしいんだから」

    「十年立つうちには大分違うもんだな」と主人は鈴木君を見上げたり見下ろしたりしている。鈴木君は頭を美麗(きれい)に分けて、英国仕立のトウィードを着て、派手な襟飾(えりかざ)りをして、胸に金鎖りさえピカつかせている体裁、どうしても苦沙弥(くしゃみ)君の旧友とは思えない。

    「うん、こんな物までぶら下げなくちゃ、ならんようになってね」と鈴木君はしきりに金鎖りを気にして見せる。

    「そりゃ本ものかい」と主人は無作法(ぶさほう)な質問をかける。

    「十八金だよ」と鈴木君は笑いながら答えたが「君も大分年を取ったね。たしか小供があるはずだったが一人かい」

    「いいや」

    「二人?」

    「いいや」

    「まだあるのか、じゃ三人か」

    「うん三人ある。この先幾人(いくにん)出来るか分らん」

    「相変らず気楽な事を云ってるぜ。一番大きいのはいくつになるかね、もうよっぽどだろう」

    「うん、いくつか能(よ)く知らんが大方(おおかた)六つか、七つかだろう」

    「ハハハ教師は呑気(のんき)でいいな。僕も教員にでもなれば善かった」

    「なって見ろ、三日で嫌(いや)になるから」

    「そうかな、何だか上品で、気楽で、閑暇(ひま)があって、すきな勉強が出来て、よさそうじゃないか。実業家も悪くもないが我々のうちは駄目だ。実業家になるならずっと上にならなくっちゃいかん。下の方になるとやはりつまらん御世辞を振り撒(ま)いたり、好かん猪口(ちょこ)をいただきに出たり随分愚(ぐ)なもんだよ」

    「僕は実業家は学校時代から大嫌だ。金さえ取れれば何でもする、昔で云えば素町人(すちょうにん)だからな」と実業家を前に控(ひか)えて太平楽を並べる。

    「まさか――そうばかりも云えんがね、少しは下品なところもあるのさ、とにかく金(かね)と情死(しんじゅう)をする覚悟でなければやり通せないから――ところがその金と云う奴が曲者(くせもの)で、――今もある実業家の所へ行って聞いて来たんだが、金を作るにも三角術を使わなくちゃいけないと云うのさ――義理をかく、人情をかく、恥をかくこれで三角になる
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