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五 - 2
だとようやく気が付いたが、さてどうしたら起きるやら、一向(いっこう)要領を得ん考のみが頭の中に水車(みずぐるま)の勢で廻転するのみで、何等の分別も出ない。布団(ふとん)の裾(すそ)を啣(くわ)えて振って見たらと思って、二三度やって見たが少しも効用がない。冷たい鼻を頬に擦(す)り付けたらと思って、主人の顔の先へ持って行ったら、主人は眠ったまま、手をうんと延ばして、吾輩の鼻づらを否(い)やと云うほど突き飛ばした。鼻は猫にとっても急所である。痛む事おびただしい。此度(こんど)は仕方がないからにゃーにゃーと二返ばかり鳴いて起こそうとしたが、どう云うものかこの時ばかりは咽喉(のど)に物が痞(つか)えて思うような声が出ない。やっとの思いで渋りながら低い奴を少々出すと驚いた。肝心(かんじん)の主人は覚(さ)める気色(けしき)もないのに突然陰士の足音がし出した。ミチリミチリと椽側を伝(つた)って近づいて来る。いよいよ来たな、こうなってはもう駄目だと諦(あき)らめて、襖(ふすま)と柳行李(やなぎごうり)の間にしばしの間身を忍ばせて動静を窺(うか)がう。

    陰士の足音は寝室の障子の前へ来てぴたりと已(や)む。吾輩は息を凝(こ)らして、この次は何をするだろうと一生懸命になる。あとで考えたが鼠を捕(と)る時は、こんな気分になれば訳はないのだ、魂(たましい)が両方の眼から飛び出しそうな勢(いきおい)である。陰士の御蔭で二度とない悟(さとり)を開いたのは実にありがたい。たちまち障子の桟(さん)の三つ目が雨に濡れたように真中だけ色が変る。それを透(すか)して薄紅(うすくれない)なものがだんだん濃く写ったと思うと、紙はいつか破れて、赤い舌がぺろりと見えた。舌はしばしの間(ま)に暗い中に消える。入れ代って何だか恐しく光るものが一つ、破れた孔(あな)の向側にあらわれる。疑いもなく陰士の眼である。妙な事にはその眼が、部屋の中にある何物をも見ないで、ただ柳行李の後(うしろ)に隠れていた吾輩のみを見つめているように感ぜられた。一分にも足らぬ間ではあったが、こう睨(にら)まれては寿命が縮まると思ったくらいである。もう我慢出来んから行李の影から飛出そうと決心した時、寝室の障子がスーと明いて待ち兼ねた陰士がついに眼前にあらわれた。
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