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五 - 7
ったばかりですもの。それでも先生より貯蓄があります」

    「どのくらい貯蓄したの?」と細君は熱心に聞く。

    「もう五十円になります」

    「一体あなたの月給はどのくらいなの」これも細君の質問である。

    「三十円ですたい。その内を毎月五円宛(ずつ)会社の方で預って積んでおいて、いざと云う時にやります。――奥さん小遣銭で外濠線(そとぼりせん)の株を少し買いなさらんか、今から三四個月すると倍になります。ほんに少し金さえあれば、すぐ二倍にでも三倍にでもなります」

    「そんな御金があれば泥棒に逢ったって困りゃしないわ」

    「それだから実業家に限ると云うんです。先生も法科でもやって会社か銀行へでも出なされば、今頃は月に三四百円の収入はありますのに、惜しい事でござんしたな。――先生あの鈴木藤十郎と云う工学士を知ってなさるか」

    「うん昨日(きのう)来た」

    「そうでござんすか、せんだってある宴会で逢いました時先生の御話をしたら、そうか君は苦沙弥(くしゃみ)君のところの書生をしていたのか、僕も苦沙弥君とは昔(むか)し小石川の寺でいっしょに自炊をしておった事がある、今度行ったら宜(よろ)しく云うてくれ、僕もその内尋ねるからと云っていました」

    「近頃東京へ来たそうだな」

    「ええ今まで九州の炭坑におりましたが、こないだ東京詰(づめ)になりました。なかなか旨(うま)いです。私(わたし)なぞにでも朋友のように話します。――先生あの男がいくら貰ってると思いなさる」

    「知らん」

    「月給が二百五十円で盆暮に配当がつきますから、何でも平均四五百円になりますばい。あげな男が、よかしこ取っておるのに、先生はリーダー専門で十年一狐裘(いちこきゅう)じゃ馬鹿気ておりますなあ」

    「実際馬鹿気ているな」と主人のような超然主義の人でも金銭の観念は普通の人間と異(こと)なるところはない。否困窮するだけに人一倍金が欲しいのかも知れない。多々良君は充分実業家の利益を吹聴(ふいちょう)してもう云う事が無くなったものだから

    「奥さん、先生のところへ水島寒月と云う人(じん)が来ますか」

    「ええ、善くいらっしゃいます」

    「どげんな人物ですか」

    「大変学問の出来る方だそうです」

    「好男子ですか」

    「ホホホホ多々良さんくらいなものでしょう」

    「そうですか、私(わたし)くらいなものですか」と多々良君真面目である。

    「どうして寒月の名を知っているのかい」と主人が聞く。

    「せんだって或る人から頼まれました。そんな事を聞くだけの価値のある人物でしょうか」多々良君は聞かぬ先からすでに寒月以上に構えている。

    「君よりよほどえらい男だ」

    「そうでございますか、私(わたし)よりえらいですか」と笑いもせず怒(おこ)りもせぬ。これが多々良君の特色である。

    「近々(きんきん)博士になりますか」

    「今論文を書いてるそうだ」

    「やっぱり馬鹿ですな。博士論文をかくなんて、もう少し話せる人物かと思ったら」

    「相変らず、えらい見識ですね」と細君が笑いながら云う。

    「博士になったら、だれとかの娘をやるとかやらんとか云うていましたから、そんな馬鹿があろうか、娘を貰うた
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